ビー・ナチュラル株式会社 代表取締役(元バンダイネットワークス(株)代表取締役)林俊樹氏第1回「のりしろの広い仕事」への転機(全4回)
今や世代を超えて定着しているモバイルツール。それを支えるコンテンツ産業のうちで、欠かせない一つの要素として、ゲームをはじめとするエンタテインメントがある。今回の「次代に伝えるブログ」では、モバイル市場の創成期に1コンテンツで会員数400万、会社売上年間80億円以上をたたき出したバンダイネットワーク株式会社を設立し、初期代表取締役を勤め、現在はモバイルコンテンツ開発から自社商品販売、また商品開発などのコンサルティングを手がけるビー・ナチュラル株式会社の代表取締役である林 俊樹氏に、モバイルコンテンツ黎明期から現在に至るまでのさまざまなエピソードを語ってもらった。
第1回 「のりしろの広い仕事」への転機
モバイルコンテンツ事業は2000年前後をはじめに急成長を遂げ、現在はある意味成熟した巨大市場となっている。林は現在日本のモバイルを牽引してきた通信事業者~キャリアの事業開始前からコンテンツ企画に携わってきた。まだカタチもみえない事業に際してトライし、結果として大成功を収めたその人となりからまずは見ていきたい。
「私のキャリアは全くデジタルコンテンツとは関係のない業界からのスタートでした。大学を卒業し、全国農業協同組合連合会(全農)に新卒で入社したのです。全農とは、全国の農家と消費者を結ぶありとあらゆる事業のサポートを行う、いわば農協組織の総合商社の役割をもった団体ですね。
その意味ではゼネラリストとしてのスキルが求められましたが、正直とても違和感を感じました。というのも私自身は元々「おたく気質」なんですね。子供のころから目覚まし時計を分解してしまうような子供で、図面を書いたりするのが大好き、要はモノづくりが好きだったのです。
全農ではありとあらゆるものを扱うので、あくまでも広く浅く関与しないといけないということでしたが、私は紳士服の担当になると、裁縫の本を買ってきてスーツを一着自分で作ったりして先輩に怒られる、そんな人間でした。
その後、転職して一社で販売促進の仕事をした後に、続いて2回目の転職を決意したのですが、転職する際の条件として「のりしろの広い企画の仕事がいい」というのを心がけました。のりしろ、というのは製品の実利機能の成約がなく、実用商品の場合のように理屈やマーケティング力よりも、企画力のおもしろさが採用される、そういった自由度のひろさ…企画冥利というような意味ですね。
そこで選んだのがバンダイだったわけです。私は企画者で生きていきたい、と思ったので企画力100%が活かされるこの業種がぴったりでしたね。
とはいえ、もともとは企画者であり開発者の性質だったので、もろもろ仕事上の政治的な部分などはめっぽう苦手で、結構問題も多く貧乏くじをひくようなところも多かったですね(笑)」
商社での総合職に自らの本質的な性格との違和感を感じて企画者として活躍したいと転職。そんな林の企画者としてのデビューは、玩具の開発というところだった。自らの希望通り「のりしろの広い」職種につき、順風満帆だったと思いきや、どうやら当初は苦労の連続だったようだ。
「企画者として、そして開発者としてはどうだったのか、ということに関してですが、当初のころはかなり苦労をしました。毎日のようにアイデアを出すことが仕事だったわけですが、これがかなり苦痛なんですよ。アイデアを出し尽くしてしまい、おもしろいものが思いつかなくなってしまうのです。
しかし現在コンサルティングを仕事としてやらせて頂いている中で、お客様の事業アイデアや商品開発などをお手伝いする際に、違った側面から見たり、アイデアの方向性がどうだとか、そのあたりの判断を下す際にはこのときの苦労が非常にためになっているな、と感じることができました。
実際に今でも相当にアイデアは出ますから…。
話しは戻りますが、企画者としてはどうだったのかということでは正直たいした結果はありませんでした(笑)。中途採用であったこともあり、社内では花形の戦隊もののロボットが登場するようなシリーズには関わらせてもらえずに、パーティーグッズやジョークトイの担当をしてました。その中で「ピンポンハンド」というクイズのときに答える手の形をしたおもちゃは数億の売上を出したほぼ唯一の成功事例といっていいかもしれません。
そんなふうに企画者として華々しい結果を残したわけでも発想が優秀だったわけでもないのですが、その経験の中でも皆さんにお伝えできることがあるとすれば、このような仕事をするうえで「Age 世代間のコラボレーションの有効性」というのは非常に重要だということです。
流行に敏感であったり、技術的なセンサーの強い20代と私のようなおじさん(氏は53歳)とのコラボレーションが事業をうまく進める上で非常に重要なのだなという実体験をいくつかしましたので、それをお伝えします。
お客様のエプソンさんのプリンタで現在350万台くらい流通している中に標準実装されているmupass(携帯電話で取得した様々なデータを赤外線でプリンタに直接送信し、プリントアウトできるシステム)も弊社で開発のお手伝いをしましたが、そのプロジェクトもお客様の生まれたばかりのお子さんがベビーベッドの上でくるくる回るメリーの音が4種だけで飽きちゃう、という話しを聞いて、それならその音を携帯から赤外線で飛ばせないかと言う元々の着眼を、シロモノ家電のプログラムを書き換えることができないか?といったようなアイデアに膨らませ、世の中のシステム、インフラに!と発想を展開して行ったのは弊社がお手伝いをしたからでありました。これなどは世代間のコラボで協力していった結果、できあがったものなのです。
私は技術者でもないし、どちらかといえば大きな会社の役員の方などにこういうプレゼンをするとOKがもらえるか、などということを得意に考えたりしていました。
皆さんも経営者として営業もされると思いますが、大きな会社を責める際にはそのような大企業を経験された方などに協力頂くのがよいかもしれません。そういう会社の論理を理解できるからです。
私もお客様の外部コンサルで入りつつも、名刺をお借りして104で調べ、直接営業にいったりもしました。フットワークは軽いほうなので、今でもよく104で調べて営業に行ったりしています。」
モバイルのエンタテインメント分野での功績を考えると、その経験たるやさぞかし華々しいもので、人柄にもそれが表れているのかと想像していたが、その予想は見事に覆された。とてもフランクな印象で、世代を問わず若い社員とも一緒になって企画をするのが好きで仕方がないアイデアマンといった人柄だ。
そんな林は自らの役割を、自らを評して交渉を成立させる為の交渉役であるにすぎないと言い切る。企画者、開発者という本来の気質から考えても、その発言をもって彼自身を測るのは早計だとはいうものの、その割り切りのよさに逆にとてもスマートな印象を受けた。ただ企画者としての本質的な部分は彼のトークの中にさまざまな言葉としてキラリと光り、聞くものを吸い込ませる魅力がある。
次回はそんな林が、数々の大ヒット商品を生み出し、バンダイネットワークスをモバイルエンタテインメントの分野で大成功を収めるエピソードを探ってみたいと思う。
(つづく)
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