日本ヒューレット・パッカード株式会社 取締役執行役員 井上修氏 第1回「法務はビジネスセンスが必要な仕事?」(全4回)

By fumiki.yanagisawa@jidainokai.jp • 1月 29th, 2010

現代社会において全ての企業活動は、法律や司法に伴う法務的な側面を無視して存続することは現実的に不可能であろう。2006年ライブドアショックからはじまり、昨年の金融危機に至るまで、経済構造の激変により発生した事件やニュースは、法務の重要性を一般市民の間にも浸透させるに至っている。
今回次代の会では、その法務業務のスペシャリストである日本ヒューレット・パッカード株式会社 取締役であり、知財・法務統括本部長である井上 修氏をお招きした。法務という仕事について語って頂きながら、氏自身の人生観などを併せて追ってみたいと思う。

第1回 「法務はビジネスセンスが必要な仕事?」

「法務という仕事に対してどんなイメージをもたれますか?」

氏は講演の最初に参加者に対してこう問いかけた。
答を求められた参加者の方は「ルールに基づいてジャッジする厳格なイメージ」とか「公務員的なカタイイメージ」と答えていたが、私としても同じようなものだったと記憶している。

ここで企業活動における「法務」という仕事に対する一般的な解釈をあげると、企業の生成から解体に至るまでの全ての局面において、企業経営に係わる法律上の業務の総称を指しており、その内容は上述の企業活動上の局面はもちろん、対象や地域、方法など、実に多岐に渡っている。その内容についてここで触れることは本題ではないので割愛させて頂くとして、氏はその問いに対してこう答えた。

「法務という仕事は、法律のチェック、いわば番人的な仕事を想像される方が多く、その為『カタイ』とか『融通がきかない』というイメージが一般的ですが、それだけではありません。リスクマネジメントだけでなく、利益の追求のための良好なコンディションをキープするために、法律との関連性をチェックし、状況に応じて多様性、多角性をもったオルタナティブな提案ができる、それがこれからの新しい法務のあり方であり、まさにビジネスセンスに通じるものが必要とされる仕事なのです。」

法務にビジネスセンスが必要・・ ある意味とても新鮮な感覚を感じた。改めてみれば、井上氏の風貌は失礼ながら私のイメージの中にある「法務担当者」のそれではない。たくわえた口ひげ、タートルネックシャツにカジュアルなジャケット。「あえて今日はこのスタイルで」とのことだったが、それにしても筆者の中の「法務」という仕事のイメージとは異なる風貌、そして冒頭の質問内容に、氏への人間としての興味が沸いてきた。そこで氏の今までの経歴についてお聞きすることにした。当初氏を「幾度と挫折を乗り越えてきたエピソードの持ち主」と紹介されたが、日本法人とはいえ世界的企業の取締役としてのキャリアと挫折という言葉がどうにも結びつかない。さらに氏の人生に興味をそそられた。

「子供の頃は政治家になりたかったのです。しかし生家が貧しかったので、調べるうちに当時テレビで弁が立っていた政治家に弁護士出身者が多く、それを見て憧れ、『あ、弁護士になれば政治家になれる』だろうと。子供らしい単純な理由でした。

その後司法試験の合格者が多かった中央大学の法科まで進んだのですが、在学の4年間は司法試験に受かるつもりで勉強し続けましたね。しかし受からなかった。受かるつもりでしたから、就職試験も受けずに結果として就職浪人となってしまったのです。その浪人中に、見かねたゼミの教授に声をかけて頂き、結果大学院に入学しましたが、そのときはもう研究者の道に進もう、と進路を変えていました。自分の癖で研究に没頭するたちがあるので、向いているかなと。

そこで気がついたことなのですが、研究者とは周りの状況に応じた自分のドメインを出していかねばならず、私の研究領域であった『民事訴訟』がドイツ法を継承していることからドイツ語を勉強しなくてはならないというチャレンジが私の前に立ちはだかったのです。それで私はもともと語学が苦手だったので、2年間勉強したが、またも挫折だったのです。

それなら最初の目的どおり、司法試験を目指せばいいじゃないか、と思われる方がいるかと思うのですが、お話したとおり生家は貧しかったので、そこまでしなくてもいいかと(笑)。
そこで就職活動を始めました。既に法律に軸足をかなり置いていたので、法務中心に職を探したところ、商社に法務としての口を見つけて就職しました。そこから私の企業法務としてのキャリアがスタートしたのです。

私のエピソードのご紹介で『挫折の連続』だったといわれましたが、実は自分では全くそれを感じていないのです。そのような感覚は、迷いや不安こそあれ挫折感とは全く異なるものですね。その意味においては、もしかするとそのような『挫折感』に対して私は鈍感なのかもしれません。」

ようやく氏の社会人としてのキャリアがスタートするところまでお聞きして、ますます興味が沸いてきた。テーマである法務の仕事内容とは少し離れてしまうが、これは今に至るまでを聞かざるを得なくなってしまった。読者の皆さんには申し訳ないが、氏の社会人としてのスタートから今に至るまでのキャリアに関してしばらく一緒にお付き合い頂きたいと思う。

(第2回に続く)

敬称略 取材・執筆 次代の会 柳澤 史樹

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