日本ヒューレット・パッカード株式会社 取締役執行役員 井上修氏 第3回「キャリアパスの考え方」全4回

By fumiki.yanagisawa@jidainokai.jp • 2月 13th, 2010

現代社会において、全ての企業活動は、法律や司法に伴う、法務的な側面を無視して存続することは現実的に不可能であろう。2006年ライブドアショックからはじまり、昨年の金融危機に至るまで、経済構造の激変により発生した事件やニュースは、法務の重要性を一般市民の間にも浸透させるに至っている。
今回次代の会では、その法務業務のスペシャリストである日本ヒューレット・パッカード株式会社 取締役であり、知財・法務統括本部長である井上 修氏をお招きした。法務という仕事について語って頂きながら、氏自身の人生観などを併せて追ってみたいと思う。

第3回 「キャリアパスの考え方」
ビジネスマンとして法務のプロフェッショナルとしてシンガポールでの駐在経験、NY州弁護士資格を取得後アメリカでの駐在を.comバブルに沸くシリコンバレーにおいて経験しキャリアを積んでいたにもかかわらず、日本に帰国後は、ベンチャーへ転職する。大きな時代の転換期におけるシリコンバレーから何を感じたのだろうか。

「当時のシリコンバレーはまさに.comバブルの中心で、インターネットに牽引された産業革命の真っ只中にいるというエネルギーを感じました。ベンチャーファンドが林立し、何かをやろうと思えばお金はいくらでも調達できましたし、社外の人間ともしょっちゅう会って、いろいろなビジネスモデルを考えたりしていました。その風潮の中で、それまで感じていた「会社は家」であり、自分の人生を守ってくれるものだという感覚は、崩れていったのかもしれません。

それこそ、何かやりたいという熱い思いやアイデアがどんどん出てきた時代でしたし、車を走らせながらラジオで株式市況を聞いていると、常に「UP」しかない好景気に沸いていた状況でしたから。
そんな景気状況のシリコンバレーは365日晴れの日のようなところで、住むには非常にいいところでしたが、そうこうしているうちに「これでいいんだろうか」と。はっきりいって飽きてしまったようです。人生と同じで、晴れの日もあれば曇りの日があるからこそ面白いのであって、365日晴れのところにいると晴れのありがたみを感じなくなってしまいますから。

その頃日本に帰国することになり、帰国を機に転職することにしたんです。ちょうど日本もITバブルの波が来る次期でしたから、シリコンバレーの経験もものをいってか、ヘッドハンターからも引く手あまたでした。しかし私はその中で一番おもしろいことができそうな小さな組織のベンチャーを選んだのです。」

大企業での駐在員経験、NY州弁護士資格、そしてシリコンバレーでの駐在経験などの輝かしいキャリアをひっさげた氏は、多くのヘッドハンターのオファーを断り、可能性やおもしろさを重視し、投資事業及び事業育成コンサルを事業の中核とするあるベンチャー企業に入社し、次代の会 副理事長である福永と出会うことになる。なぜベンチャーを選んだのか。
氏があえて選んだベンチャーとしてのおもしろさと、そのベンチャーが敷いていたホールディング制という経営体制の中での経験を通じて得られた組織論についての考えを語ってもらった。

「当時はホールディング制による会社経営が日本でも流行り始めたころで、入社したベンチャーも、子会社を全て合わせると、非常に大きな組織でした。
はっきりいって何をしているのか分からないうちに怒涛のように過ぎ去ってしまったくらいの日々でしたね。
そこでいろいろな経験をしましたが、会社経営を人のサイドから見るか、またエコノミクスから見るか、によって大きな差があるということを感じました。

エコノミクス、つまり経済的な効率を考えれば当然ホールディング制をひいたほうがいいわけです。共通の経営基盤やオペレーションについては集約化し、事業そのものはその特性に対応して分業したうえで、その事業に対応した組織規模にしたほうが効率がいいのは当たり前ですが、そこで組織規模が大きくなれば全て解決か、といえばそうでもない。組織が大きくなれば、人の関係が希薄になりがちですから。逆に人を基軸にして経営を見た場合には、人の価値観がぶつかりあうことからこそ新しい価値が生まれ、そこから新しい商品やサービスが生まれるということがあります。

そういった意味で考えれば、やたら数が多く規模が大きければいいというわけではなく、しっかりとしたリアルなコミュニケーションが取れる規模の組織がいいのではないか、と感じる側面もあるわけです。どちらがいい悪い、という問題ではなく、そのバランスをどうとるか、そこが非常に難しい。
まあだからこそ経営は面白いのだ、ということだと思うのです。」

氏があえて選んだベンチャー企業での経験は、組織体制、経営体制に関する新しいナレッジを蓄積することになり、その経験をもとに氏はさらに多くの世界的な大企業での経験を積み重ねていくことになるのだが、それも順風満帆というわけではなく、挫折の連続だったとのことである。

考えてみれば、シリコンバレーしかり、帰国後のベンチャーへの転職しかりと、あえて面白さ、スリル、充実感を求める氏の生き方を鑑みれば、ある意味大組織で安穏としたキャリアには氏自らが興味を覚えなかったと考えられる。
次回はいよいよそのキャリアパスの最終章から今日に至るまでをお聞きし、これから将来にむけて氏が目指している方向性について存分に語って頂こうと思う。

(最終回に続く)
敬称略 取材・執筆 次代の会 柳澤 史樹

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