SIP株式会社 代表取締役社長 (元株式会社デジタルガレージCOO)齋藤茂樹氏 第1回「イノベーション&イミテーション NTT時代」(全4回)

By fumiki.yanagisawa@jidainokai.jp • 4月 23rd, 2010

「現代の産業革命」とも称されるインターネットの隆盛。その誕生に立ち会い、黎明期を支え、そして成長への道筋を作ってきた立役者がいる。今回の次代の会 講演ブログは、NTT民営化の第1期生として入社、その後日本市場で数々の大規模インターネットソリューションの事業化展開を行い、現在は次代を支えるベンチャーを支援するベンチャーキャピタル「SIP株式会社」の代表取締役社長CEO齋藤 茂樹氏の軌跡を辿ってみたい。

IMG_1985

SIP株式会社代表取締役社長 齋藤茂樹氏

第1回「イノベーション&イミテーション NTT時代」

齋藤 氏は東京大学経済学部卒。歴史が好きだったと語る氏は、過去の歴史の流れの中で「生きていかなくてはならない」というプリミティブ(基本的、根源的)な自分の存在意義を見つけたいという思いから経済を勉強しようと思ったそうである。そんな氏は大学卒業後に当時民営化されたNTTに第1期生として入社、10年間のキャリアを積むことになる。まさに日本におけるデジタルイノベーションの曙であるが、その経緯について語って頂いた。

 「経済で勉強したことは2つあります。1つは『競争原理とはどのようになっているか』、またもう1つは『利潤とはどのようなものか』ということでした。そんな勉強をしていた私が1985年に民営化したNTTを選んだ理由にはその『利潤』について私なりに思うところがあったからなのです。

『利潤』については大学で岩井克人先生(東京大学教授 本年退官)からドラッガーやシュンペーターの教えを学びました。それは『利潤とは、ベニスの商人の時代に象徴されるように、命がけで外国に出て、価値や価格体系の違うものを持ってきたところから発生するものである』という概念、または『安い賃金労働者による利潤の発生』というマルクス的な概念を経た後に生まれた『新たなイノベーション(発明)と、そのイミテーション(模倣)によって無限の利潤回転運動を続けるといった概念へと帰結したのです。

 そんなことから私の中には『利潤』に対してイノベーションとイミテーションの考えがインプットされており、大学卒業時にアナログだった通信ネットワークをデジタル化するべく民営化という大きな転換期を迎えていたNTTに、『イノベーション』的な魅力を感じ、その切り口で自分の人生を追いかけてみたい、と入社を決めたのです。」

 自らが学んだ利潤に対する考えを探求するステージとしてこれ以上はない、というほどのタイミングでNTTへの入社を決めた氏だが、入社してからはどのような業務を行っていたのだろうか。

「当時はADSLやISDN、ましてや光などもなく、アナログからデジタルへの変換期ですから、一部の大企業のみが独自のネットワークシステムを構築するという流れの中で、ソニーさんを担当として大規模なネットワーク構築を前半の5年間はやっていました。

 後半の5年間は『料金制度担当』という全く異なる部署での仕事でした。その部署はグラハム・ベル(電話の発明者)が電話を発明した翌年、明治10年に政府が電話を導入した当時から総務省、郵政省と共に実質的に制度を作ってきた電電公社の部署なのですが、例えば公衆電話の料金体系だとか、3分10円のエリアがどう変化したか、というような物凄く古い資料などがあるような、いわば日本の通信の歴史をつくってきたような部署ですね。そのなかで私は『テレジョーズ』や『テレワイズ』といった割引料金システムを組み立てるような仕事で、他社との競争にもそれなりに充実感を感じ、満足をしていたのです。」

ここまで聞く限りでは通信業界のイノベーションを正に現場で体験してきた氏にとっては、NTTを去る理由があるとは思えないのだが、何が彼を転職への道へ駆り立てたのだろうか。

「デジタル回線に変わり、長距離通話に関しての値下げがどんどん進んだあげくに、他社との競争が落ち着くと同時に、設備投資に莫大な費用のかかったNTTとしては、それを回収するために基本料金を値上げしなくてはならず、そのロジックをつくって国と折衝する中で競争の仕組みが決まってしまうというような流れにどうにも違和感を感じ始めたのです。

その頃ですね。インターネットが日本に入りだしたのは。1993年くらいのことです。それまでの企業通信システムは、構築した会社ごとで繋がらないといったようなことに苦労していたのですが、毎日のようにインターネットやマルチメディアの本を読んだり、総務省の勉強会に出て、インターネットに関連する他業種の人たちとの交流を進める中で『何かすごいことになるな』と実感し始めました。

 私の感覚として、デモクラシーなメディアとしてのインターネット社会は『私の人生の中で起こった最も大きなイベントである』と定義付けできると思っています。

当時もちろんNTTもマイクロソフトやアップルとインターネットに関しての事業化を進めていたのですが、そんなことを感じていた私に提示された部署は、広島で労働組合との折衝を行うというような仕事だったのです。もちろん重要な仕事ではありますが、インターネットの魅力に対して賭けてみたいという私自身の思いをどうしても捨てきれず、最終的に転職を考えることになったのです。」

ここから氏は一転価値観を変換、インターネットベンチャーへその人生の舵を切ることになり、その為の1stステップとしてとして1年後にアメリカ MITへの留学の座を勝ち取る。次回はそのアメリカでの留学から始まる、ベンチャーへの挑戦の軌跡を追ってみたい。

エス・アイ・ピー株式会社 URL:  http://www.sip-vc.com/

(第2回に続く)

敬称略 取材・執筆 柳澤史樹

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