SIP株式会社代表取締役社長(元株式会社デジタルガレージCOO)齋藤茂樹氏 最終回「世界に冠たる日本発ベンチャーを支援するために」(全4回)
「現代の産業革命」とも称されるインターネットの隆盛。その誕生に立ち会い、黎明期を支え、そして成長への道筋を作ってきた立役者がいる。今回の次代の会 講演ブログは、NTT民営化の第1期生として入社、その後日本市場で数々の大規模インターネットソリューションの事業化展開を行い、現在は次代を支えるベンチャーを支援するベンチャーキャピタル「SIP株式会社」の代表取締役社長 齋藤茂樹氏の軌跡を辿ってみたい。

SIP株式会社 代表取締役社長 齋藤茂樹氏
最終回「世界に冠たる日本発ベンチャーを支援するために」
デジタルガレージ社で、「価格.com」はじめ多くのITサービスを事業化し、日本のITベンチャーをけん引してきた氏は、さらに新たなベンチャーを求め、実父の創業したSIP株式会社に4代目の社長として就任、その手腕を振るい始めた。最終回の今回は、ベンチャーキャピタルにおける日本の現状と、氏が考えるビジョン、そして想いを語ってもらおう。
「まず日本とアメリカのベンチャーキャピタルの違いについてお話します。アメリカはグーグルがいい例ですが、まだグーグルが赤字の際に投資されているんですね。この仕組みは後で述べますが、非常にシステマチックです。日本の場合昔と異なりベンチャーキャピタルは、なかなか事業内容を考えて投資してくれるところはないですし、赤字事業に投資しないのです。
通常プロジェクトは、コアな技術から商品開発をするシード(種)のフェーズ、製品ができて販売ができるようになるアーリーステージのフェーズ、そしてそれを拡販するイクスパンション(成長)フェーズと、レイターステージ(公開前)フェーズと4つのフェーズがあり、日本ではレイターステージの投資が中心になっていますが、わが社SIPでは、アメリカのようにアーリーステージのフェーズに投資するスタイルを実践するというのがミッションだと思っています。」
日本に以前存在した「メインバンク制」では、企業との結びつきが非常に濃いために、大型の融資も可能だったが、国際会計基準が導入された昨今、メインバンク制のような銀行と企業の緊密な関係性がなくなり、その為にベンチャーが資金を調達するのが困難になっているという。対するアメリカでは非常にシステマチックかつダイナミックな投資を実現できる仕組みが構築されており、SIPはそのようなモデルを日本で実現させたいというのが齋藤氏のビジョンであるということだった。
では実際にベンチャーが成功する資質のようなものがあるのだろうか。氏は成功するベンチャーのポイントについてこう語ってくれた。
「ポイントは4つあると思います。1つ目はコアがすばらしいかどうか。これはさらに2つに分けて技術的にすぐれているか、というインベンションフェーズ、そしてその技術をサービスや商品としてどこまで世の中に拡がるかというイノベーションフェーズ。この2つの局面におけるクオリティが求められると思います。
2つ目は大企業とのチャネル構築。日本のみならず中国、アメリカでも通用するようなモデルを大企業とのチャネルを連携させることで作りたい。金額としては100億~300億までの市場規模を網羅できるレベルのプロジェクトを探しています。
3つ目はお金を追加で投資できる体力。アメリカでは小規模からしっかりとベンチャーキャピタルがリスクをとれるような「ニュートラルマネー」があり、その為に大企業とベンチャーによる同業界でのイノベーション及び競争が常に活性化するのですね。そのようなリスクファイナンスのお金が日本でも拡がっていかないと日本の産業が成長しないというのが私の持論でもあり、その為にベンチャーキャピタルをやっているといっても過言ではありません。その仕組みを作らない限り、日本は資本主義社会の中で力を発揮できないし、アメリカや中国に負けてしまう、ということを何とか支援したい、と思いベンチャーキャピタルにこだわっています。
そして4つ目は経営者の資質です。
以上4つのポイントが、日本におけるベンチャーが成長できるかどうかのポイントだと思うのです。」
1つ目、そして4つ目はベンチャー自身の問題だとして、やはり2つ目と3つ目はそれを支援するキャピタルのスタンスや仕組みが必要不可欠であると感じる。その意味においても氏のようなスタンスをもったベンチャーキャピタルの存在は非常に重要であると感じる。
「ニュービジネスの発展に際しては、先ほども触れましたが、インベンションフェーズとイノベーションフェーズという大きなくくりの中に、技術とビジネス、そして官・学・大企業、ビジョナリーユーザーとマジョリティユーザーという分類のもと、それぞれが構造化されるべきだと考えます。
ビジョナリーユーザーとマジョリティユーザーの分類は、ハイテクマーケティングのバイブルといわれる『キャズム』(1991年ジェフリー・ムーア著)の中で語られている概念ですが、あるサービスや商品に際して最初に購入する10%~15%のビジョナリーユーザーと、その後それが発展、普及してから購入するマジョリティユーザーという分類において壁があり、まずビジョナリーユーザーに受けなければ普及はしない、またビジョナリーユーザーに受けても、その後かなり使いやすいものにならないとマジョリティユーザーには受け入れられない、という2段階のハードルがあるということなのですね。
これは一般のビジネスでも共通して理解できる重要な概念かと思います。
このようなカテゴリを複合的に検証していくなかで、ベンチャーのスタンスとしては技術のシーズを研究開発する「シーズベンチャー」とそれをサービス開発にする「アーリーステージベンチャー」という存在があるのです。日本ではそれらをすべて大企業が社内でやってしまいますが、アメリカなどでは大企業は上述したようなフェーズをベンチャー企業にアウトソースするという概念を持っているわけで、私としては日本の大企業の方々にもそれを理解して頂こうと思って一生懸命やっているわけです。」
「正直なところ、日本では戦略的なイノベーションの流れというものがほとんどないんですね。私としては皆さんのような若い経営者の方々にも協力してもらい、積極的に発言してもらうことで、そのようなイノベーション支援の潮流を作り、日本を変えていきたいと思っています。ニュービジネスを支援するベンチャーキャピタルの仕組みに関して、アメリカでは機関投資家の3%という莫大な金額がベンチャーキャピタル業界に流れますが、そのような仕組みも日本では全くないんですね。
これは現在までそれだけのパフォーマンスを日本のベンチャーが出せていないという意味で、私自身自戒の念もありますが、日本の政府としても、国がリスクファイナンスできるような仕組み作りに対して取り組んでもらえるように働きかけていきたいと思っています。そしてそれを実現する為に、ビジネスをどう作るかというような視点に立てる、人材を育てていきたいということも考えています。」
当初は骨を埋める覚悟で渡米した氏だったが、今は日本のベンチャーを取り巻く状況を鑑み、日本が世界に誇れるベンチャーの支援をすることにまい進している様子が伺える。大企業での経験、日米のITベンチャーでの経験など、それを語る上で実際に氏が経験した中から発せられる言葉だけに説得力がある。そのビジョンのとおり、人生をかけてベンチャー(冒険)を選択した氏が、日本のみならず、世界に冠たるプロジェクトを発見、支援、結実させる日を楽しみに追いかけてみたい。
(了)
敬称略 取材・執筆 柳澤史樹
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